ある女流作家の罪と罰 18/米

 原題は Can You Ever Forgive Me? だが、邦題だけで女性作家が主人公なのは分る。アメリカの女性作家リー・イスラエルの伝記映画で、原題も彼女の自伝のタイトルそのままなのだ。日本でのコピーは「私が創った偽物は、本物よりも価値がある――」。コピーどおり、私文書偽造に手を染めた作家の顛末を描いている。

 映画は1991年から始まる。かつてはベストセラー作家だったリー・イスラエルもその頃はアルコールに溺れ創作も出来ず、文書校正の職も勤務態度が災いして首になる。仕事面だけではなく私生活も行き詰まり、家賃や病気の飼い猫の治療代も払えない始末。
 もちろん職業作家ゆえ創作意欲を失った訳ではなく、エージェントにファニー・ブライスの伝記を持ちかけても、今時誰もそんな本は読まないと一蹴される。リーは既に時代に取り残された作家となり果てていた。本屋に自作を持ち込んでも売れず、店員はあのセール品(※75%オフで売られていた)の著者と横柄にいう。

 それでもベストセラー作家だったプライドは衰えず、トム・クランシーの作品を極右プロパガンダ本と罵倒、彼に300万ドルも支払うのはおかしいと噛みつく。エージェントが忠告する通り、サイン会やラジオに出て、愛想を振りまく作家の方が出版社にも読者にも好まれるのだが、尊大で身なりも構わない51歳の女作家は耳も貸さない。
 いよいよ生活に困窮したリーは、ついに大切にしていたキャサリン・ヘプバーンからの手紙を古本屋に売った処、思いもかけぬ高値がつき、リーはセレブの手紙の偽造に手を染めることになる。

 その頃、ジャック・ホックという古い友人がリーの前に現れる。昼間から飲んだくれている住所不定の男だが、毒舌家のリーとは気があった。リーの偽造ビジネスも順調に行き、生活も安定する。
 しかし、悪事は何時までも続かない。収集家の中には手紙を捏造と疑う者が現れ、FBIも動き出す。古物商に偽造した手紙が売れなくなったリーに、ジャック・ホックは協力する。この共犯者は間もなく司法取引でリーの文書偽造を打ち明けた。リーが偽造した手紙は、最終的に400通にもなったことが映画のラストに出ている。

 私文書偽造を問われ裁判となるが、リーは実刑ではなく5年の執行猶予だった。その間は仕事とボランティア、断酒会への出席以外は自宅を出ることは禁止される。それを厳しいと感じた人もいるかもしれないが、塀の中に入るよりは遥かにマシではないか。特にリーのような協調性のない中年女なら、刑務所暮らしは絶え難いだろう。
 裁判時のリーの陳述は興味深かった。弁護士が助言する反省の弁を述べず、暫く前から偽造している時こそが最も充実を感じていたと率直に述べている。自分は作家ではなかったとも言い、作家であるがゆえの苦悩を告白した。
「本当の自分の作品で勝負すればたちまち批評や批判にさらされる。そこに飛び込む勇気が私にはなかった」

 リーはセレブの伝記でベストセラー作家の地位を築いており、元から優れた作家だったのだ。そんな彼女が自らの偽造を描いた自伝のタイトルこそ『Can You Ever Forgive Me?』。ニューヨーク・タイムズはリーの自伝『Can You Ever Forgive Me?』を、”卑しくも最高に痛快な1冊”と評したという。もしかすると、リーの最高傑作だったかもしれない。
 映画のラストでリーが偽造した手紙をショーウインドーに飾っている本屋が出てくる。鑑定書付きで売られているのだが、リーはこの書店に嫌味たっぷりの手紙を送りつけ、店主は件の手紙が偽物であることを知る。一旦は片付けようとした店主だが、思い直してそのままにしておくシーンは何ともやりきれない。少なからぬ古物商はリーの持ち込んだ手紙を偽造と見抜いていただろうが、贋作でも売り付けた者はいたはず。

 本年度のアカデミー賞3部門にノミネートされたにも関わらず、この作品は日本未公開となっている。本作でリーに扮したメリッサ・マッカーシーの名を知ったが、さすがに主演女優賞にノミネートされるだけの演技力だった。ジャズがBGMに使われ、古きニューヨークの雰囲気が出ているのも良い。

 本物のリーの写真を載せたブログ記事があり、上の画像はそこからの借用。左がメリッサ・マッカーシーで右が本物だがまるで似ていない!映画版では全く身なりに構わない設定だったが、本物は中々ファッショナブルなので驚いた。
 険しい表情で陰険な印象がある本物に対し、コメディアンでもあるメリッサは陽性なので、どこか憎めないキャラとなった。先のブログ管理人も言うとおり、「「地味なデブのおばさん」のほうが共感度は高い」し、映画化に当っての脚色だろうか。

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