ロスト・ボディ(V)

評価点:75点/2012年/スペイン/111分

監督:オリオル・パウロ

秀逸なサスペンスドラマ。

死体安置所の夜警が驚いて林の中を逃げ出し、道路に飛び出て車に轢かれる。
何に驚いたのか、防犯カメラにも証拠が残っていなかった。
そこにあったはずの新しい死体が消えていた。
その死体はいくつもの会社を抱える女実業家マイカ(ベレン・ルエダ)のものだった。
その死体の夫、アレックス(ウーゴ・シルバ)の元に連絡が行く。
アレックスは、不倫相手の若いカルラと逢っていたところだった。
驚いたアレックスは死体安置所に向かうが……。

アマゾンプライムで見つけた作品。
全く予備知識なしで、どんなストーリーかも知らずに見た。
何も知らないで見た方が、確実に楽しめるだろう。
言いたいけれど、見るつもりがあるなら、ネタバレを見ずに見てしまおう。
見ても損はないはずだ。

スペイン映画で、私は全くノーマークだった。
もちろん、役者も誰一人知らない。
これくらい何もしらないほうが、きっとよい。
こういう出会いがあるから、映画は面白い、と思えるような作品だ。

▼以下はネタバレあり▼

あなたはこの映画を見ましたよね?
見ていないなら引き返してくださいね?
ネタバレしてから映画を楽しむ人もいるでしょうが、この映画はそういう種類の映画ではありません。
もう一度見たくなる映画であることは確かですが。

ということで、ここまで脅せば、さすがにもう見ていない人はいないでしょう。
ネタバレ批評に行きましょう。

この映画はいわゆるミスディレクションの映画だ。
ミスディレクションとは、ある一定の方向に観客を誘導しておいて、実は全く違うところにオチ、真相を用意するタイプのものだ。
ハリウッドでは古くからあるが、流行ったのはやはり「シックス・センス」の前後だろう。
優劣、玉石混淆、様々なものがあるが、この映画はその中でもかなり完成度が高い映画になるだろう。
あらを探せば疑問点はあるものの、概ね許容できる範囲の矛盾であるような気がする。
むしろ、オチが衝撃的すぎてこういう映画はどうしてもあらを探してしまう。
だから、映画を見終わった後の混乱と、衝撃と、あら探しは渾然一体になって表出してくる読後感(鑑賞後感)なのだろう。
その時点で、私たちはこの映画に負けたのだよ。

死体がなくなり、呼び出され、そして「生き返って復讐されている」という恐怖。
妻を殺害した男目線では、確かに恐怖以外の何ものでもない。
観客は、死体が生き返ったのか、それとも妻と懇意にしていた他の誰かが復讐に来たのかという二択で真相を探していくことになる。
挙げ句の果てには、唯一のよりどころだったカルラが命の危険にさらされて、男は全てを白状してしまう。

このときの上映時間がまだ残り30分以上あった。
私はある程度、気持ち悪い部分は多々あるにしても、一件落着に近づいているのだろうと思っていたが全く違った。
真相は、交通事故を起こされた刑事の復讐だったのだ。
時系列で物語時間を整理しておこう。

マイカとアレックスが、島で出会い、恋に落ちる。
この事件から10年前、ハイメ刑事(ホセ。コロナド)と妻子を乗せた車が、マイカとアレックスの車に激突され、妻が殺される。
アレックスらは救急車を呼ぶこともなく、逃げ去る。
数年後、同乗していた娘エヴァの記憶が蘇り、車の持ち主が判明する。
アレックスはマイカと上手くいかなくなる日があったとき、娘のエヴァがアレックスに近づき、ハニートラップをしかける。
アレックスはどんどんカルラこと、エヴァにのめり込み、過去にあった事故のことを話してしまう。
それを知った二人は、マイカとアレックスを引き裂くことを思いつく。

離婚で無一文、という方法も一つだったのかもしれないが、アレックスは妻を殺害することをエヴァに提案する。
これを聞いたエヴァは、彼らかどのような計画かを詳細に聞き出しながら、それを録音していた。
いよいよ実行され、その晩に死体が生き返ったように演出する。(★)
驚いたアレックスは死体安置所に呼び出される……。
裏で全てを知っていたエヴァは、病院には行っておらず、死体安置所での恐怖の演出(手紙を置いたり、ケータイを置いたり)を全て仕組んでいた。
車で襲われたような電話をかけて、家を片付け(★)、ベルリンへ旅立つ。
晩に呑んだお酒に、TH-16という心臓発作を起こす薬を飲ませておき、朝方刑事から真相を知ったときにはアレックスは絶命する。

このような流れだと思う。
ただ、★をつけたところが実は釈然としない。
死体が逃げ出したとき、アレックスはエヴァと逢っていた。
刑事は風呂に入って寝ようとしていたとき、夜警が事故に遭ったことを聞かされている。
誰が死体を動かしたのだろう。
エヴァとしても、時間的にかなり厳しいような気がする。
いつ恋人が来るかもしれない状況の中、遺体を運んで隠し、銃を向け…、部屋に戻る。
刑事のほうだとすれば、さらに冒頭の描写がミスリードだ。

もう一つは、生活感が溢れるあの部屋を誰も住んでいなかったように片付けるという点。
そもそもアレックスが考えていたのは違う階だった、とすればまだ説明はつくのかもしれないが。
時間内になんとか綺麗に片付けることはできても、埃がかぶったような、何年も空き家だったようには片付けるのは難しいだろう。
そもそも刑事と学生がセキュリティの硬い大富豪の家に入って手紙や銃を持ち出せるのか(暗証番号を知って合鍵を造れたとしても防犯カメラに映ってしまう)も厳しいところだ。

こういうことがあまり問題にならないような感じがするのは、マイカの性格の悪さ、アレックスのクズぶりからだろう。
キャラクター造形がしっかりしているので、観客は盲目的になってしまう。
随所に刑事の交通事故の話が出てきて、それもキャラクターを補強するための設定であって物語の大筋ではないと思わせてしまう。
それが最後につながるところが、鳥肌もの(さぶいぼ)だ。

腑に落ちない点はあるにしても、それでもサスペンスとしては秀逸であることは間違いない。
一人で見ていたが、できれば誰かと話し合いたいような、そういう映画だ。

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